眺めのいい場所

八十郎は眺めのいい場所が好きだった。だから、八十郎を訪ねるときも、どこに家があるのか知らなかったけれど、窓からの眺めが綺麗に違いないとは思っていた。
島だから海の近くを想像していた。ところが波止場で網を修繕していた初老の男に八十郎のことを訪ねると「ああ、あの変わった風来坊だな。あいつの家は岡。唐櫃の岡。でもあんまり家におらんらしいよ」と言っていた。丘の中腹に八十郎の家があるらしい。港からゆるやかな坂をそれなりの時間をかけて歩くと、田畑と家が並ぶ集落にたどり着く。その道端から見る海はすばらしい。視界が左右に広い。そうか、こんなところに家を見つけたのかと納得した。
路地をうろうろ訪ね歩くと、それほど時間もかからず集落の中心部からほんの少しだけ山側に八十郎の家を見つけることができた。八十郎の名前を呼んでも返事はない。不在のようだ。玄関を勝手に開けて中に入ると台所がある。靴を脱いで上がると天井が低いのに閉口した。だが、右側の流しのすぐ奥にある窓からは、遠くではあるがはっきりと美しい海が見えた。僕は納得した。天井が低いので、この景色を愉しむためにはずいぶんかがむ必要がある。だが、とにかく八十郎は眺めのいい場所に家を見つけたわけだ。
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